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教養本のすすめ その3

とはいえ、私の読書歴は迷走していた。素晴らしい知性が詰まっていると信じた哲学書を全く理解できないまま終わったり、質より量を目指して絵本を買い漁ってみたり、海外旅行ガイドブックを集めて多くの国に訪問した気分になってみたり、英語の本を買ってみたものの三ヶ月たっても十ページしか進まずに挫折したりしていた。
これで本当にいいのか、といつも疑問に感じていた。知識は増えているのか。視野は広がっているのか。私の人生は豊かになっているのか。
そんな状況が長く続いた後、大きな転機が訪れた。長年の夢だった留学費用が貯まったのである。カナダで、私は生まれて初めて価値観を共有する者たちに出会った。
カナダ人たちは教養を高く評価し、私と同様、知性に憧れる者が多かった。私は読書経験で蓄えてきた知識を余すところなく披露した。多くの場合、彼らは心底興味深そうに聞いてくれた。また、相手も私に新しい話題を提供してくれた。私は知識欲が刺激され、視野が広がり、洞察が深まった。
カナダ人は日本人ならまず触れないような宗教、科学、人生などの話題にも躊躇なく踏み込んできた。それらは、私が読書を通じて考え続けてきたテーマでもあった。そんな根源的な問題の議論を通じて、私は読書以外にも人生を豊かにする方法があると認識した。それは、異なる考え持つ者との交流である。私にも違った信念の価値を認める余裕が出てきたようだった。
そのカナダで、私は将来の夢について聞かれた。既に三十前後になっていた私は、将来の夢を持つ齢でないが、昔は医者になりたかった、と答えた。年齢によって未来が制限されることは公平でないと信じるカナダ人は、私のその返答に納得しなかった。私は、カナダと日本の違いを説明しようとしたが、止めた。逆に、私が医者になってもいいと思うか、と質問した。相手は、お前ほど知性と理性を求める奴なら医者になるべきだ、と力強く答えてくれた。明らかに本心で、涙が出そうなほど感動的な言葉だった。その言葉に勇気を得て、一念発起し、医学部への受験勉強を始めた。
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