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経済大国インドネシアとAct of killing

「経済大国インドネシア」(佐藤百合著、中公新書)という本があります。その名の通り経済に注目していますが、スハルトの独裁体制以後のインドネシア民主化についても簡潔に知ることができる本だと思います。スハルト以後、スハルト体制が徹底して否定された政治が続き、その否定政治がもう一度否定されて、より高次の政治制度にアウフヘーベンされた、と本で説明しているのは興味深いです(その観点からいえば、ロシアのプーチン政権と似ています)。オバマ大統領はインドネシアのこの民主化の過程を絶賛しており、アラブの春以後の中東国家が目指すべき民主化モデルにインドネシアがあると考える人も少なくないようです。
現在、インドネシアは人口ボーナスの時期で、高度経済成長期にあります。ただし、1995年にもインドネシアはOECD閣僚理事会でBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)と並んで次期経済大国に定められていました。そこから、なぜインドネシアだけが脱落したのでしょうか。この本では、スハルト以後の体制変換期だったから、と説明しています(こう説明されるのも、ソ連体制後、プーチン政権頃まで経済が崩壊していたロシアと似ています)が、私はそれだけではないと考えています。
「アクト・オブ・キリング」というドキュメンタリー映画があります。インドネシアのプレマン(ヤクザ)による虐殺事件の再現ドラマのドキュメンタリーです。1965年にスカルノ大統領を追い落とした9月30日事件の後、プレマンたちが共産主義者を数十万人も虐殺します。実際に虐殺を行ったプレマンたちに、当時の再現ドラマを実演してもらい、その舞台裏を記録した映画です。
映画で、あるプレマンは過去に行ったリンチ殺人の被害者の役を演じます。その映像の出来に感激して、そのプレマンが「被害者の気持ちが分かったんだ」と言って、感激で全身を震わせます。呆れた映画監督が「被害者の気持ちはそんなものじゃなかったでしょう。あなたは殺されるフリをしただけだが、被害者は本当に殴られ、刺されたんですよ」と忠告します。
プレマンたちの非道は現在もインドネシアの政治や経済に蔓延しており、民主化を著しく阻害しています(「暴力と適応の政治学」岡本正明著、京都大学学術出版会を参照)。こんなプレマンたちが社会に跋扈していること、それをインドネシア社会が容認していることが、インドネシアの経済成長を鈍化させ、インドネシア人全体の幸福度を下げていると私は思います(同様のことは、マフィアがいまだ暗躍して、一部の恵まれた者たちだけに富が集中しているロシアにも言えるでしょう)。
物質的な豊かさで決して劣っていないはずの日本で、生産性の低さが指摘されている原因にもヤクザや威圧社会への容認があると考えます。それについては、「パワハラの現状と日本の生産性の低さ」周辺の記事に書いているので、読んでもらえると幸いです。
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面白そうな本の紹介ありがとうございます!

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